「流体力学ってそもそもどんな学問?」
「流体力学の知識は何に使うの?」
「機械設計の仕事にはどう役立つ?」
このような疑問を解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、流体力学を学ぶ第1ステップとして「流体力学とはどういう学問か」について解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- 流体力学とはどんな学問かがわかる
- 流体力学の知識が機械設計にどう役立つかがわかる
- 流れの種類がわかる
今回は、流体力学を勉強するうえでも基礎となる内容です。
機械設計の仕事をやっていて、流体力学を勉強したいという方は、ぜひ本記事の内容を参考にしてください。
流体力学とは
流体力学とは、ずばり「流れる物体を取り扱う力学」のことです。
”流れる物体”とは液体と気体を指し、この2つは異なった性質を持っています。
具体的に言うと、気体は分子が空間を飛び回っているためすき間だらけえす。
一方、液体は分子が緩やかに結合した状態であり、すき間がありません。
そのため、気体は圧縮すると体積と密度が変化しますが、液体は圧縮しても体積と密度はほとんど変化しません。
このような、気体と液体の物性の違いが、流体力学の特性にも影響します。
たとえば、容器に入れられた気体分子は、温度が高くなると内部エネルギーが上昇して飛び回る速度が速くなります。
その結果、気体分子が容器の壁に衝突し、容器内の圧力は上昇します。
容器が可変の場合は、膨張して体積も増加します。
一方、液体の場合は、これらの変化は無視できるくらい小さな値です。
以上のことから、気体は圧縮性があり、液体は圧縮性がない(非圧縮性)ことがわかります。
流体力学を勉強するうえでは、これらの概念を理解しておくことが大切です。
- 気体・・・圧縮性がある
- 液体・・・圧縮性がない(非圧縮性)
流体力学の知識は何に使うの?
さきほど説明したように、機械設計の仕事では「液体・気体を扱う製品の設計」において、流体力学の知識を使います。
具体例をあげると、自動車や飛行機、水道管やガス配管、発熱部を冷やすための冷却装置(水冷・空冷)、、、など。
たとえば、飛行機では空気抵抗や浮力を、流体力学の知識を使って計算します。
水道管やガス配管では、圧力損失の少ない配管を設計することが重要です。
また、冷却装置では「いかに効率よく冷やせるか」を流量や速度などから計算します。
このように、流体力学の知識は、身の回りの多くの製品に使われています。
機械設計の仕事をするうえで、流体力学は必須の知識であるといえるでしょう。
流れの種類
では、ここからは様々な流れの種類について解説します。
全部で5種類。
順番に見ていきましょう。
理想流体と実在流体
粘性・圧縮性がない流体を理想流体、それ以外の粘性がある流体を実在流体と言います。
たとえば、日常生活でよく見られる水や空気は、実在流体です。
川を流れる水は、川岸で流れが遅く、岸から離れるにつれて流速が大きくなります。
川の流れには、渦が発生している場合もあります。
これらは、流体が粘性を持っていることによって起こる現象で、実在流体の特性です。
一方、理想流体は粘性がなく、力を加えても圧縮できない流体と定義されています。
さきほどの川の例で言うと、粘性がなく抵抗が作用しないため、川岸と川の中央で速度は変化しません。
また、流体間で摩擦(せん断力)が作用しないため、渦も発生しません。
水も空気も理想流体ではありませんが、曲がりの緩やかな水の流れ・低流速の空気の流れなどは、理想流体として近似できます。
機械設計で扱う場合は、流れを理想流体と考えて計算することになります。
- 理想流体・・・非粘性、非圧縮性の流体
- 実在流体・・・粘性、圧縮性がある実際の流体
連続流体と不連続流体
流体の質量が連続的に変化する条件を連続流体、そうでない条件を不連続流体と言います。
たとえば、地表(高度0m)の空気は連続流体ですが、高度100kmの空気は不連続流体です。
もう少し詳しく説明すると、大気圧は高度が上がるにつれて小さくなります。
そのため、高度100kmの空気は、地表付近の空気に比べて単位体積あたりの分子数が少ない状態です。
気体分子は空間をランダムに飛び回っていますから、分子の数が少なくなると、場所によって分子の数が異なる状態が発生してしまいます。
すなわち、空間内の質量(分子の数)が連続的に均一に分布しなくなるのです。
ここで、流体が連続体かどうかは、クヌッセン数Knという値を使って判断します。
クヌッセン数は以下の式で表され、「Kn < 0.01」であれば連続流体です。
Kn = λ / L
(λ:分子の平均自由工程、L:代表長さ)
式はネットで検索すればわかるので、特に覚えなくてもOK。
「Kn < 0.1」なら連続流体とだけ覚えておきましょう。
基本的に、流体力学で扱う式や定理は連続流体にのみ適用できます。
上空の空気のようなクヌッセン数が大きい不連続流体は流体力学の範囲外ということを覚えておきましょう。
- 連続流体・・・質量流量が連続的に変化する流れ(Kn < 1)
- 不連続流体・・・質量流量が連続的に変化しない流れ
定常流れと非定常流れ
時間が経っても流体の状態が変化しない流れを定常流れ、時間とともに状態が変化する流れを非定常流れと言います。
ここで言う流体の状態とは、流速や圧力、流量、流れの方向のことです。
たとえば、天気が良く風も穏やかな日の河川は、状態が変化しない定常流れです。
一方、台風の日の河川は降水量や風速によって流量や流速が変化するため、非定常流れとなります。
機械設計においては、定常時(安定した状態)で考えるのか、非定常時(時間によって流れが変化する状態)で考えるのかによって、要求仕様や設計も変わってきます。
したがって、製品の使用条件や環境を考慮した設計が求められます。
- 定常流れ・・・時間が経っても状態(流速・流量・流れの向き)が変化しない流れ
- 非定常流れ・・・時間とともに状態(流速・流量・流れの向き)が変化する流れ
ニュートン流体と非ニュートン流体
水や空気のように粘性(粘度・粘性係数)が一定の流体をニュートン流体、流速によって粘性が変化する流体を非ニュートン流体と言います。
たとえば、水あめやペンキ、コンクリートのような粘度が高い流体は非ニュートン流体です。
ニュートン流体には、流体力学で扱う式や定理が適用できます。
一方、非ニュートン流体は上記が使えず、特殊な扱いが必要です。
したがって、流体力学を勉強する場合は、流体は基本的にニュートン流体と考えればOKです。
- ニュートン流体・・・粘度が一定の流体
- 非ニュートン流体・・・流速によって粘性が変化する流体
超音速流れ
流速が音速より速い流れを超音速流れと言います。
流速uと音速aの比であるマッハ数Mが1より大きくなる流れです。
M = u / a (無次元)
超音速流れでは、流体の温度が高くなることから、熱力学や伝熱工学も関係してきます。
隕石が大気圏へ飛び込んでくるような速度領域(M>5)になると、極超音速流れと呼ばれ、流れと熱と化学反応を伴う流体力学が必要になります。
- 超音速流れ・・・マッハ数が1より大きい(流速が音速より速い)流れ
まとめ:機械設計では、流れの種類を把握することが大切
記事の内容をまとめます。
- 流体力学とは、流れる物体(液体・気体)を取り扱う学問
- 気体は圧縮性があり、液体は圧縮性がない(非圧縮性)
- 粘性・圧縮性がない流体が理想流体、それ以外の粘性がある流体が実在流体
- 機械設計では、物体を理想流体と考えて計算する
- 流体の質量が連続的に変化する条件が連続流体、そうでない条件が不連続流体
- 流体力学で扱う式や定理は連続流体にのみ適用できる
- 時間が経っても流体の状態が変化しない流れが定常流れ、時間とともに状態が変化する流れが非定常流れ
- 粘性が一定の流体がニュートン流体、流速によって粘性が変化する流体が非ニュートン流体
- 流速が音速より速い流れ(マッハ数Mが1より大きい流れ)が超音速流れ
- 機械設計では、使用環境によって流れの種類が変わる
以上です。
流体力学とはどういう学問か、そして流れの種類について解説ました。
流体力学は、流れの種類や状態によって適用できる式や定理が変わります。
機械設計の仕事では、扱う製品がどういう流れかを把握して、適切な式を当てはめることが大切。
今回紹介した内容が一度で理解できなかったという方は、ぜひ繰り返し読んで使いこなせるようになってください。
次の記事はこちら。
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