「ねじの緩み止め対策が知りたい」
「そもそもねじが緩む原因は…?」
このような疑問や悩みを解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、ねじの基礎知識を学ぶ第3ステップとして「ねじ緩みの原因と緩み止め対策」をわかりやすく解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- ねじ緩みの原因がわかる
- 緩み止めの方法がわかる
- 適切なねじを選定できるようになる
ねじのトラブルで多いのが「緩み」による部品の脱落です。
ねじ緩みの原因はいくつかあり、それに応じて必要な緩み止め対策も変わってきます。
本記事では、そんなねじ緩みの原因と対策を、具体例を使ってわかりやすく解説します。
「ねじの緩み対策で悩んでいる」という方は、ぜひ参考にしてください。
ねじ緩みの原因とは
ねじ緩みの主な原因は、締め付け軸力が低下することです。
そして、この締め付け軸力の低下は、ボルトやナットの戻り回転を伴わない緩みと、戻り回転を伴う緩みの2つによって起こり得ます。
戻り回転を伴わない緩み
戻り回転を伴わない緩みの主な原因は、以下の5つです。
①初期緩み
ねじを締め付けた直後に、締め付け軸力がわずかに低下する現象です。
締め付けていた力を抜くことによるトルクの解放や、接触面のなじみによって発生します。
②微小摩耗による緩み
ねじ締結後、外力による振動が伝わって、接触部で微小摩耗によるへたりを生じ、締め付け軸力が低下する現象です。
③陥没緩み
ねじ頭やナットと被締結部材の接触面(座面)が、締め付け軸力や外力によって陥没する(塑性変形する)ことで、締め付け軸力が低下する現象です。
ねじ締結体では、座面の接触面圧が非常に高くなります。
陥没緩みを防ぐためには、座面の接触面圧が材料の限界面圧を超えないようにする必要があり、平座金を使って接触面積を大きくし、面圧を下げる方法などがあります。
④熱による緩み
ねじや部材の熱膨張によって、締め付け軸力が低下する現象です。
一般的に、材料は熱が加わると体積が大きくなり、冷えると小さくなります。
したがって、温度変化が発生すると、ねじや部材が膨張と収縮を繰り返し、次第に締め付け軸力が低下するのです。
⑤過大外力による緩み
ねじを引っ張る方向に過大な外力がかかると、締め付け軸力が低下してねじが緩みます。
部材を急激に引っ張るなど、ねじに外力が作用することで起こる現象です。
戻り回転を伴う緩み
戻り回転を伴う緩みが発生すると、部品がガタつくだけでなく、ボルトの脱落や疲労破壊を引き起こし、重大な事故につながる可能性があります。
そのため、後で紹介するような緩み止め対策を講じて、緩みを防止することが大切です。
戻り回転を伴う緩みは、ねじ軸と垂直方向に繰り返し荷重が作用することで発生します。
具体的には、軸と垂直方向の振動によってねじの座面およびねじ面で同時にすべりを生じ、ねじが回転することで緩みます。
したがって、戻り回転を伴う緩みを防ぐためには、繰り返しが作用しないような設計が理想ですが、現実的にはなかなか厳しいです。
そこで、緩み止めとしては、座面およびねじ面のすべりを防止する方法が用いられます。
ねじの緩み止め対策
さいごに、ねじの緩み止め対策をいくつか紹介します。
使用条件によって使える・使えないがあるので、状況に応じて使い分けてください。
戻り回転を伴わない緩みの防止法
戻り回転を伴わない緩みでは、接触面での摩耗や陥没を防止することが大切です。
この対策として、以下の3つの方法があります。
- 熱処理などで接触面の表面硬さを向上させる
- 接触面の表面粗さを向上させる
- 平座金を使って接触面圧を下げる
部材の硬さや表面粗さを向上させれば、接触面の摩耗を減らすことができます。
また、平座金を入れて座面の接触面積を増やし、面圧を下げることも有効。
平座金は材質やサイズでバリエーションがあるので、適切なものを選ぶ必要があります。
戻り回転を伴う緩みの防止法
つづいては戻り回転を伴う緩みの防止です。
こちらはさきほど説明したように、座面とねじ面でのすべりを起こさせない対策が有効。
具体的には以下の2つがあります。
- 緩み防止ナットを使う
- 接着剤でねじ面と座面を固着させる
緩み防止ナットには、Uナット、ナイロンナット、フランジ付きナットなどの種類があります。
効果としては、塑性変形を利用してねじ面でのすべりを抑制する、樹脂をねじ面に噛み込ませてすべりを抑する、ナット座面にギザギザの歯を設けて座面でのすべりを抑制するといった感じです。
また、接着剤は固着力の大小によって種類があり、用途に応じて適切な接着力のものを選定する必要があります。
1つ注意したいのが、上記の緩み対策にはデメリットもあるということ。
たとえば、緩み防止ナットは使用できるねじが限定されたり、形状に制約があったりします。
また、接着剤もねじが外れにくくなる(再施工しにくくなる)ことがデメリットです。
したがって、まずはねじ締結体に作用する外力を見積もり、ねじ面や座面ですべりを生じないような軸力で締め付けることが大切。
これを行わず適当な軸力で締め付けて、「緩み止めは、緩み防止ナットや接着剤を使えばいいや」という設計では「良い設計」とは言えません。
また、緩み防止ナットを用いる場合でも、ナットを使ったうえで適切な締め付け管理ができているかを確認することが大切。
これができていないと、緩みは防止できても、ねじの疲労破壊といったトラブルにつながる可能性があります。
まとめ:ねじ緩みを防止して「壊れない設計」をしよう
以上、ねじ緩みの原因と緩み止めについて解説しました。
ねじが緩まない設計をすることは、予期せぬトラブルを防止するためにも非常に重要。
ねじが緩む原因はいくつかあり、今回紹介したのはあくまでも一例です。
実際には複数の要因が組み合わさることで緩みが発生するので、状況に応じて適切な緩み止めを実施することが大切。
若手設計士の方は、「設計する」→「不具合が起きる」→「対処する」という経験を繰り返しながら覚えていくことになります。
今回紹介した内容を参考に、ぜひ「壊れない設計」ができる設計士になってください。
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