「可逆変化・不可逆変化ってなに?」
「熱力学第二法則ってなんだっけ…?」
このような疑問を解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、熱力学を学ぶ第5ステップとして、「熱サイクルと可逆変化」について解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- 可逆変化・不可逆変化の違いがわかる
- 熱サイクルと熱効率の考え方がわかる
- 熱力学第二法則とは何かがわかる
今回は、いままでと比べて少し難しめの内容です。
一度で理解できなかったという方は、記事を繰り返し読んで、内容を理解することをおすすめします。
前回の記事はこちら。
可逆変化・不可逆変化とは
可逆変化・不可逆変化とは、その名のとおり逆が可能(不可能)な熱サイクルのことです。
具体的に説明すると、たとえば下図のように、ピストンで密閉された断熱容器に気体が入ってるとします。
左の状態でピストンの上におもりをのせると、内部の気体が圧縮されて、圧力p・体積V・温度Tは変化します。
さらにその状態からおもりを取り除くと、内部の気体はもとの状態に戻ります。
このように、状態が変化しても、再びもとの状態に戻ることが可能な変化が可逆変化です。
また、さきほどの変化で、ピストンのすべり面に摩擦があると、おもりを取り除いても元の状態へ戻ることができません。
摩擦があると、ピストンのすべり面に力が作用するため、元に戻るには仕事が必要だからです。
このように、もとの状態に戻ることが不可能な変化を不可逆変化といいます。
2つ目の例のように、物体が動くと必ず摩擦が発生するため、自然界の変化はすべて不可逆変化です。
可逆変化は、摩擦が働かない理想的な状態での変化であり、理論上の変化であるといえます。
熱サイクルと熱効率
可逆変化のように、物体が状態変化を繰り返し、再びもとの状態に戻る変化のことを熱サイクルと言います。
熱サイクルでは、熱を力に変換して外部に仕事をすることができます。
このとき、加えた熱量Qと、それによって得られた仕事Wの比が熱効率ηです。
η = W/Q
たとえば、4サイクルエンジン(4ストロークエンジン)は、熱サイクルの代表例。
下図のように、「①吸気→②圧縮→③燃焼→④排気→①吸気…」を繰り返すことで、動力を生み出しています。
1サイクルで得られるエンジン出力をW、ガソリンの燃焼によって得られるエネルギーをQ1、④で放出される排熱量をQ2とすると、4サイクルエンジンの熱効率は以下のとおり。
η = (Q1-Q2) / W
ここで、④で熱を外へ放出すると熱効率は減少するように見えます。
しかしながら、④で燃焼ガスを排出しないと、もとの状態(①)へ戻ることができません。
熱サイクルを成り立たせるためには、排出する熱量が必要なのです。
以上のことから、熱効率=1(加えた熱量をすべて仕事に変換する)となる熱サイクルは存在しないことがわかります。
加えた熱の一部を外部へ放出しなければならないのが、熱機関として作動させるための基本原理です。
これは、次に説明する熱力学第二法則にもつながります。
熱力学第二法則とは
熱は温度の高いところから低いところへ移動しますが、その逆はありません。
これを、熱力学第二法則と言います。
さきほどの例でいうと、④で排出される熱量を回収して、再び加熱することができれば、熱効率は100%になります。
しかしながら、排出された熱源は高温、加熱する側の空気(④で排熱後の空気)は低温です。
熱力学第二法則から、低温→高温への熱の移動は不可能であり、排熱を回収して熱効率を100%にすることは不可能なことがわかります。
(①へ戻るには排熱して温度を下げ、再び外部から熱量を加える必要がある)
自動車でラジエーターを使ってエンジンを冷やすのは、エンジンのオーバーヒートを防ぐだけでなく、熱を排出して熱機関として作動させるためでもあるのです。
ちなみに、熱力学第二法則にはさまざまな表現方法があります。
どれも言っている内容は同じなので、機械設計においては特に覚えなくてもOK。
参考程度に見ておくといいです。
いろいろな熱力学第二法則
- クラウジウスの原理
- トムソンの原理
- オストヴァルトの原理
- エントロピー増大の法則
まとめ:自然界の変化はすべて不可逆変化
記事のポイントをまとめます。
- 状態が変化しても、再びもとの状態に戻れる変化が可逆変化
- 状態が変化したとき、もとの状態に戻れない変化が不可逆変化
- 物体が動くと必ず摩擦が発生するため、自然界の変化はすべて不可逆変化
- 加えた熱量と、それによって得られた仕事の比が熱効率
- 熱力学第二法則から、熱効率=1となる熱サイクルは存在しない
以上です。
熱力学第二法則は、熱サイクルを理解するうえで非常に重要な概念です。
言われてみると当たり前の内容ですが、自動車のエンジンやエアコン、冷蔵庫などさまざまな製品で使われています。
イマイチ理解できなかったという方は、繰り返し読んで内容を理解してみてください!
次の記事はこちら。
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