「半導体製造装置について勉強したい」
「熱処理ってどんなプロセス?」
「具体的な処理内容や装置の仕組みを教えてほしい」
このような疑問にお答えします。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は半導体製造装置メーカーで機械設計エンジニアとして働いています。
本記事では、半導体製造装置を学ぶ第3ステップとして「熱処理装置の特徴」をわかりやすく解説します。
この記事を読むとわかること。
- 熱処理装置の役割がわかる
- 熱処理装置の仕組みがわかる
- 熱処理装置の種類がわかる
熱処理は、前回の記事で説明したイオン注入の後に行われる工程。
イオン注入によって乱れたシリコンの結晶性を回復させるプロセスです。
今回は、そんな熱処理の役割や熱処理装置の仕組みを初心者にもわかりやすく解説します。
ぜひ参考にしてください。
熱処理装置とは
冒頭で説明したように、熱処理の役割はイオン注入によって乱れたシリコンの結晶回復です。
イオン注入では、シリコン結晶に不純物となる原子を、イオンとして打ち込みます。
この状態では、不純物の原子はシリコンの結晶格子と置き換わっているわけではなく、結晶格子が乱れた状態。
結晶を回復させるためには、熱によってシリコン原子や不純物の原子が結晶内を移動し、シリコンの格子点に収まる必要があります。
この熱を加えて結晶を回復させるプロセスが熱処理です。
熱処理装置の仕組み
熱処理装置には、バッチ式(ウェーハを複数枚まとめて処理する方式)と枚葉式(ウェーハを1枚ずつ処理する方式)の2つがあります。
バッチ式は、石英炉でウェーハを加熱するホットウォール方式です。
また、枚葉式は赤外線ランプでウェーハを加熱するRTA法と、レーザー光でシリコンを溶かして加熱するレーザーアニール法にわかれます。
バッチ式熱処理装置:ホットウォール方式
石英炉にウェーハを入れて外側から加熱するバッチ式熱処理装置です。
石英炉には横型炉と縦型炉の2種類がありますが、ウェーハの大口径化に伴いフットプリントの問題から縦型炉が主流になってきています。
装置の大きさ(専有する面積)のこと。
フットプリントが大きくなると、より大きな工場(クリーンルーム)が必要となり、電力などのコストも増える。
したがって、なるべく小さい方が望ましい。
ホットウォール式は、一度に大量のウェーハを処理できるのがメリットですが、一気に温度を上げられないため処理に時間がかかるのがデメリット。
また、微量ですが不純物が石英炉の内壁についてしまうため、専用の洗浄装置で定期的に除去する作業が発生します。
枚葉式:RTA装置
RTA(Rapid Thermal Anneal)は、赤外線ランプを使ってウェーハを急速に加熱する枚葉式熱処理装置。
ウェーハの原材料であるシリコンは、赤外線を吸収しやすいという特徴があります。
そのため、ウェーハに赤外線を照射すると急速に加熱されて、温度が上昇するのです。
枚葉式なので処理できるウェーハは1枚ずつですが、昇降温を含めて1分程度で処理できるのが特徴。
ホットウォール式は1回の処理で数時間かかるため、スループットにおいてはRTAの方が優れています。
ただし、RTAに用いられる赤外線のハロゲンランプは、消費電力が大きいという問題があります。
そのため、ウェーハ1枚あたりのランニングコストがバッチ式よりも高くなり、省電力化が課題です。
1時間に何枚のウェーハを処理できるかを表した数値。
たとえば、1日で2400枚のウェーハを洗浄できる場合、スループットは100[枚/h]。
枚葉式:レーザーアニール装置
エキシマレーザーと呼ばれる紫外線レーザーを利用する熱処理装置。
シリコンウェーハに紫外線を照射すると、紫外線のエネルギーでシリコン表面が溶融&再結晶化します。
この性質を利用して処理を行うのが、レーザーアニール装置です。
RTAでは多数のランプを用いてウェーハに均一に赤外線を照射できます。
一方、レーザーアニールではビームサイズに限界があるため、一度の照射ではウェーハの一部分にしかレーザーが当たりません。
そのため、全体を処理するために、ウェーハをスキャンさせる必要があります。
まとめ:熱処理装置の役割はイオン注入後の再結晶を行うこと
記事の内容をまとめます。
- 熱処理は、イオン注入によって乱れたシリコンの結晶格子を回復させるプロセス
- 熱処理装置はバッチ式のホットウォール方式と、枚葉式のRTA装置・レーザーアニール装置の3種類がある
- ホットウォール方式は、石英炉でウェーハを外側から加熱する方法
- RTA装置は、シリコンが吸収しやすい赤外線を使ってウェーハを急速に加熱する方法
- レーザーアニールは、紫外線(エキシマレーザー)でシリコン表面を溶かして再結晶化する方法
以上です。
熱処理は、前回の記事で解説したイオン注入の後に必ず行われる工程です。
ウェーハを加熱する技術は、成膜やエッチングなど他の工程でも使われているので、原理や仕組みを知っておくと役立つはず。
もっと詳しい技術が知りたい方は、参考書や論文を調べてみると面白いかと思います!
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