「境界層ってなに?」
「野球の変化球には境界層が関係しているってどういうこと?」
「ナックルボールが落ちる原理が気になる…」
このような疑問を解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、流体力学を学ぶ第8ステップとして「境界層の流体力学」について解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- 境界層とは何かがわかる
- 境界層の具体例がわかる
- 野球の変化球の原理がわかる
境界層は、実在流体であれば必ず存在しています。
今回は、野球の変化球を例に挙げて、境界層とは何かをわかりやすく解説します。
ぜひ参考にしてください。
前回の記事はこちら
境界層とは
境界層とは、流れの中に置かれた物体の周辺に発生する、流速が主流よりも遅くなっている領域のことです。
境界層は、流体が持つ粘性の効果によって発生します。
そのため、実在流体でのみ発生し、粘性がない理想流体には発生しません。
実在流体の中に物体を置くと、物体表面では流れがなく、表面から離れると流速が急激に増加します。
この大きな速度勾配が、物体に作用する摩擦力となります。
一方、境界層の外側では、流れの状態は物体の存在に影響されません。
したがって、流れを摩擦力の作用しない理想流体として扱うことができます。
理想流体や粘性がわからない方は、下記記事をどうぞ。
野球の変化球の原理
境界層の具体例として、野球の変化球を挙げて説明します。
カーブやスライダー、フォークといった変化球は、さきほど説明した境界層の制御に関係しているのです。
ピッチャーが投げたボールは、回転することでボールの左右に流速差が生まれます。
上図で言うと、ボールは時計回りに回転しているので、空気の流れと回転の向きが逆になる下側は流速が速く、上側は遅くなります。
したがって、ベルヌーイの定理からボールの左右で圧力差が生まれ、進行方向に対して左右に曲がる力が発生するのです。
ここで、ボールの回転スピードは、ピッチャーの手から離れた瞬間が最も速くなります。
したがって、投げた瞬間からボールは曲がるはずですが、実際のカーブやスライダーは打者の手元(キャッチャーが捕球する直前)で変化すると言われています。
この現象に、今回のポイントである境界層の流れが関係しているのです。
ピッチャーが投げたボールが曲がるためには、ボールの回転力が周りの空気に伝わって、空気に回転の運動エネルギーを与える必要があります。
ここで、空気には粘性があるため、ボールの表面には境界層が形成されます。
したがって、空気に回転が伝わって、ボールを変化させるまでに時間がかかり、打者の手元で変化するようなボールになるのです。
ナックルボールが落ちる原理
さきほど、変化球はボールの回転によって周りの空気に流速差を発生させ、変化させると説明しました。
では、ボールが回転しないナックルボールは、どうして変化するのでしょうか。
これには、野球のボールにある縫い目が関係しています。
野球のボールは縫い目があるため、完全な球体ではありません。
そのため、ピッチャーが投げたボールは、縫い目によってまず空気抵抗の小さい乱流境界層を形成します。
その後、速度が少しずつ低下することでレイノルズ数が低下し、空気抵抗の大きい層流境界層へと移行するのです。
空気抵抗が増加すると、ボールには急ブレーキがかけられます。
これによって、ボールは進行方向に進む力よりも、重力によって落下する力の影響が大きくなります。
結果的にバッターは、ボールが手元で急激に落ちたように感じるのです。
まとめ:実在流体には境界層ができる
記事の内容をまとめます。
- 境界層とは、流れの中に置かれた物体の周辺に発生する、流速が主流よりも遅くなっている領域のこと
- 層流境界層は抵抗が大きく、乱流境界層は抵抗が小さい
- 野球の変化球は、ボールを回転させることで境界層を制御して曲げる
- ナックルボールは、乱流境界層から層流境界層へ遷移することで急激に落下する
以上です。
今回は、やや発展的な内容として境界層の流体力学について解説しました。
野球の変化球のように、身の回りの現象にも使われている原理です。
興味があるという方は、ぜひ他の現象についても調べてみると面白いでしょう。
次の記事はこちら。
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