「熱処理って何のためにするの?」
「熱処理にはどんな種類がある?」
「焼きなましとか焼きならしとか、言葉が似ていて違いがよくわからない…」
このような疑問を解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、材料を学ぶ第2ステップとして「熱処理の種類と目的」を解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- 熱処理とは何かがわかる
- 熱処理の種類と目的がわかる
- 用途にあった熱処理を選択できるようになる
大学で機械系の学部や学科なら、材料の授業で熱処理を学ぶかと思いますが、難しい理論や用語ばかりでわかりづらいですよね。
本記事では、「熱処理が実際の設計や加工現場でどう使われるか」に重きを置いて初心者の方にもわかりやすく解説します。
「熱処理について理解できていない」という方は、ぜひ参考にしてください。
熱処理の目的
熱処理は、その名のとおり熱を使って材料を処理すること。
加熱・冷却することで金属組織を変え、材料の性質を変えるのが目的です。
熱処理によって得られる効果は以下のとおり。
用途や目的に応じて、適切な熱処理を使い分けます。
熱処理の種類 | 目的 |
---|---|
焼入れ、焼戻し | 部品を硬く、粘り強くする |
高周波焼入れ | 部品表面を硬くする |
焼きなまし | 部品をやわらかくする、内部応力を除去する |
焼きならし | 乱れた金属組織を直す |
熱処理の種類
熱処理は、加熱と冷却の条件を変えることで使い分けます。
①加熱温度、②加熱速度、③保温時間、④冷却速度の4つを組み合わせて、目的にあった性質に材料を変化させていくのです。
また、上記4つの条件の中でも最も重要なのが④の冷却速度で、以下の種類があります。
- (a)急冷・・・水や油に直接入れて急速に冷やす(水冷・油冷)
- (b)空冷・・・自然放熱によって徐々に冷やす
- (c)炉冷・・・炉の中に入れたままゆっくり冷やす
焼入れ・焼戻し・焼きなまし・焼ならしの大きな違いは、この冷却速度です。
焼入れ焼戻し
ここからは、それぞれの熱処理の特徴を紹介していきます。
まず、熱処理の中で最もよく使うのが「焼入れ焼戻し」です。
焼入れと焼戻しは別作業ですが、セットで行うのが基本。
焼入れで材料を硬くすると、材料はもろくなります。
そこで焼戻しによって粘りを出し、硬くて粘り強い材料にするのが目的です。
これをグラフ化すると、以下のとおり。
焼入れの加熱温度は800℃〜1200℃以上で、材料の種類や用途によって使い分けます。
一方、焼戻しの加熱温度は150〜600℃で、こちらも目的に応じて使い分けます。
一例をあげると、耐摩耗性が欲しい時は400℃前後の「低音焼戻し」を、粘り強さが欲しい時は600℃前後の「高温焼戻し」を行うといった感じです。
機械設計で焼入れを行う場合
さきほど、焼入れ焼戻しは、硬くて粘り強い材料にするのが目的と説明しました。
つまり、部品を頑丈にすることが目的なのですが、これには焼入れを含めて3つの方法があります。
- 硬くて強い材料を選定する
- 焼入れ焼戻しで強くする
- 形状や寸法を工夫する
基本的には、安価な炭素鋼を選定して3の方法で寸法を大きく設計するのが、手間もコストがかからない手法です。
しかしながら、寸法や形状に制約がある場合には、2の方法を採用して焼入れ焼戻しを行います。
ただし、焼入れ硬さや粘り強さを向上させることができる反面、焼き割れやひずみを生じる原因になります。
対策としては、材料全体が均一に冷える形状が理想で、角部にはR(丸み)をつけるなど設計によって工夫することが重要です。
焼きなまし
焼なましは目的によっていくつか種類があります。
ここでは、材料をやわらかくする「完全焼きなまし」と、材料内部の応力を除去する「応力除去焼きなまし」を紹介します。
まず、完全焼きなましですが、加工硬化によって硬くなった材料をやわらかくして、加工性を向上させるのが目的。
一方、応力除去焼きなましは、材料内部の応力を除去し、加工時のそりや割れを防ぐことが目的です。
焼きなましの種類によって加熱温度や冷却速度は異なりますが、実際の設計では用途や目的に応じた焼きなましがあると理解していればOKです。
ちなみに、焼きなましは「焼鈍(しょうどん)」とも言います。
焼きならし
焼きならしは、加工によって乱れた金属組織を元に戻すことが目的。
実際には製鋼工程で使われることが多いので、機械設計をやるうえでは参考程度に理解しておけばOKです。
高周波焼入れ
材料全体ではなく、表面のみを硬くしたい場合は高周波焼入れや、材料表面に炭素をしみ込ませる浸炭が用いられます。
焼入れの目的は部品の硬さや耐摩耗性を向上させることですが、設計によっては表面もしくは表面の一部だけでOKという場合もあります。
高周波焼入れは、材料にコイルを巻き高周波電流を流して表面のみを瞬時に加熱する熱処理です。
焼入れに比べて加熱による変形を小さく抑えることができ、大きな部品にも適用できるのがメリットです。
まとめ:目的や用途に応じて適切な熱処理を使い分けよう
以上、熱処理の種類と目的を説明しました。
今回は主に機械設計士の視点から解説しましたが、製鉄業や材料メーカー、加工メーカーで働く場合はより詳しい理解が必要になると思います。
今回の記事を読んでもっと勉強したいと思った方は、専門書や参考書を使って勉強するのがおすすめです!
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