「安全率ってどうやって計算するの?」
「安全率の目安ってどれくらい?」
「許容応力と引張強度ってなに…?」
このような疑問を解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、材料力学を学ぶ第5ステップとして「許容応力と安全率」について解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- 安全率とは何かがわかる
- 許容応力と安全率の関係がわかる
- 安全率の計算方法がわかる
- 設計における安全率の目安がわかる
製造業や建設業で設計される機械、構造体、飛行機、船舶、自動車、建造物など、あらゆる製品で安全率の設定が必要です。
記事の中では、安全率とは何かという説明から、具体的な計算方法、安全率の目安までわかりやすく紹介するので、「安全率について教えてほしい…!」という方はぜひ参考にしてください。
前回の記事はこちら。
安全率とは
安全率とは、「製品を壊れないように(安全に)使うための考え方」です。
製品には、外部からの荷重が働いたり、力がかかったりすることで材料内部に応力が発生します。
そこで、応力がかかっても材料が壊れないよう設定するのが安全率Sです。
安全率の具体的な計算方法は以下のとおり。
ただし、σaは材料の許容応力[N/mm2]、σbは材料の基準強さ[N/mm2]であり、安全率に単位はありません。
S = σb / σa
ここで、許容応力とは、製品を設計した際の材料に発生する最大の応力のことです。製品ごとに異なる値になります。
また、基準強さとは、材料が破断してしまうときの応力のことで、材料ごとに固有の値です。
言葉だけだとわかりにくいので、図を使って具体的に説明します。
下図は、一般的な材料の応力-ひずみ線図です。
- a:比例限度・・・フックの法則の限界点(応力とひずみの比例関係がなくなる)
- b:弾性限度・・・弾性変形の限界点(力を取り除くと変形が元に戻る限界)
- c:降伏点(上)・・・塑性変形が開始する点(力を取り除いても元に戻らなくなる)
- d:降伏点(下)・・・応力が急激に増加する点
- e:最大強度点・・・最大応力を示す点であり、引張応力・引張強度などと呼ぶ
- f:破断点・・・材料が破断する点
材料に力を加えていくと、弾性変形を経て塑性変形に移行します。
点aまではフックの法則(σ=εE)が成り立ち、応力はひずみに比例します。
また、点b(弾性限度)までは弾性変形なので、材料が伸びていても、力を取り除くと元の長さに戻ることができます。
しかしながら、点cを超えると弾性変形から塑性変形に移行し、力を取り除いても材料は元の長さに戻ることができません。
この点cの応力を降伏応力と言います。
点c以降は一旦応力が小さくなりますが、さらに力を加えていくと変形が進み、点eで応力が最大となります。
この点eの応力が材料の引張強度です。
点eを超えると応力は小さくなり、点fで破断にいたります。
以上のことから、材料が破断しないようにするためには、発生する最大応力(許容応力)を引張強度(基準強さ)以下に抑える必要があることがわかります。
「発生する最大応力」=「引張強度」となる場合が、安全率1です。
もちろん、安全率1だと想定外の荷重がかかった時に材料が破断してしまう可能性があります。
安全率の目安についてはあとで解説しますが、実際の設計では安全率を3以上に設定するのが普通です。
弾性変形と塑性変形について理解していない方は、前回の記事をどうぞ。
安全率の計算方法を具体例で解説
安全率とは何かがわかったところで、具体的な計算方法を説明します。
安全率を計算する手順は、以下のとおりです。
- 安全率を任意に設定する
- 材料の基準強さ(引張強度・降伏応力)を調べる
- 安全率と基準強さから、材料の許容応力を求める
- 発生する応力が許容応力以下であることを確認する
ステップ1:安全率を任意に設定する
まずはじめに、製品の安全率を設定します。
ベテラン設計士なら、自身の経験から最適な安全率を設定することができますが、経験が浅い方は以下の表を目安に考えるといいです。
もちろん、上記はあくまで目安なので、社内でルールがある場合はそちらに従ってください。
ステップ2:材料の基準強さ(引張強度・降伏応力)を調べる
安全率を設定したら、材料の基準強さを調べます。
引張強度や降伏応力は、ネットで「材料名+スペース+引張強度」などと検索すると、簡単に調べられます。
ステップ3:安全率と基準強さから、材料の許容応力を求める
基準強さがわかったら、材料の許容応力を求めましょう。
冒頭で紹介した安全率の式に代入すればOK。
S = σb / σa
ここまでで、材料に発生する最大の応力の計算値がわかります。
ステップ4:発生する応力が許容応力以下であることを確認する
さいごに、実際に部材に発生する応力が、さきほど求めた許容応力以下であることを確認します。
実際に発生する応力の総和 < σa
実際の製品には、外部からの荷重や、ねじを締め込んだ時に発生する圧縮荷重、熱膨張によって発生する熱応力などが働きます。
したがって、材料に発生すると考えられる応力をすべて計算し、その合計がさきほど求めた許容応力以下であれば、製品を安全に使用できることが保証されます。
安全率を大きくするとどうなる?
さいごに、安全率とコスト・性能の関係について説明します。
安全率は、設計時に考えられるさまざまな条件を考慮して設定されます。
しかしながら、実際に製品を使っている時、設計時には想定していなかった過剰な応力が発生しないとは断定できません。
このような想定外の事態が発生しても壊れないために、安全率は大きければ大きいほど安全であると言えます。
一方で、安全率を大きくすると、製品のコストは上がり、性能は下がります。
たとえば、自動車の設計で、シャフトをより強度の高いものに変えるとします。
強度が上がった分、安全率は大きくなって壊れにくくなりますが、材料費は高くなりますし、場合によっては車体が重くなって燃費が悪くなる可能性もあります。
つまり、安全率はただ単純に大きく設定すればいいというわけではなく、コストや性能とのバランスを考えて本当に必要な値を設定する必要があるのです。
これは、具体的にいくつに設定すればいいという明確な答えはなく、設計者の経験によって判断がわかれることもあります。
僕自身、設計歴3年とまだまだ経験が浅いので、仕事では先輩にアドバイスをいただくことも多いです。
僕みたいな設計経験が浅い若手エンジニアの方は、まず自分で必要と思う値を計算してみて、先輩や上司に見てもらうのがいいでしょう。
まとめ:適切な安全率を設定するには経験も必要
記事の内容をまとめます。
- 安全率とは、製品を壊れないように使うための考え方
- 許容応力とは、製品を設計した際の材料に発生する最大の応力のこと
- 基準強さとは、材料が破断してしまうときの応力のこと
- 安全率が大きいほど、製品が壊れにくい
- 一般に、製品の安全率を大きくすると、コストは上がり、性能は下がる
- 適切な安全率を設定するには経験も必要
以上です。
許容応力と安全率は、機械設計をするうえで必ず理解する必要がある考え方。
適切な安全率を設定できるようになるためには経験も必要なので、失敗して先輩にダメ出しをもらいながら成長していけばOKです!
次の記事はこちら。
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