「材料の性質ってどんなのがあるの?」
「材料選定にはどう関係する?」
このような疑問を解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、機械材料を学ぶ第1ステップとして「材料が持つ3つの性質」について解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- 材料の性質がわかる
- 機械的性質・物理的性質・化学的性質の違いがわかる
- 性質の違いによる材料の選定方法がわかる
材料の性質を知ることは、適切な材料を選定するための基本です。
正しい材料を選定できれば、より安く品質の良い設計ができるはず。
ぜひ本記事で材料の性質を理解しておきましょう。
材料の性質とは
材料は、その種類によって様々な性質があります。
具体的に言うと、硬い(柔らかい)・重い(軽い)・電気を通す(通さない)・熱を伝えやすい(伝えにくい)・サビる(サビない)・・・といった性質。
たとえば、電線には電気をよく通す銅やアルミが使われていますし、自動車や航空機のボディには軽量化のためにアルミや樹脂が使われています。
材料の性質を理解しておくことで、目的に応じて適切な材料を選択することができるのです。
また、上記のような材料の性質は、ヤング率や熱伝導率といった形で数値化されて大小を判断できるようになっています。
実際の設計では、この数値をもとに製品の強度や熱膨張、電気抵抗などを計算し、適切な材料を選定していくことになります。
材料が持つ3つの性質
材料の性質は、機械的性質・物理的性質・化学的性質の3つに分けられます。
それぞれの特徴は以下のとおり。
- 機械的性質・・・外部からの力に対する性質
- 物理的性質・・・重さや電気、熱に対する性質
- 化学的性質・・・腐食やサビなどの化学反応に対する性質
順番に説明していきます。
材料の機械的性質
機械的性質は、材料に外部から力が加わったときの性質です。
以下の3つに分けられます。
- 強さ・・・変形のしにくさ(剛性)と耐えられる力の大きさ(強度)
- 硬さ・・・材料表面の抵抗力
- 粘り強さ・・・壊れにくさ
材料の強さ
「強さ」とは、力が加わった時の変形のしにくさと、耐えられる力の大きさのことです。
前者を剛性、後者を強度と言います。
強度と剛性の違いは下記記事で解説しているので、合わせて読んでみてください。
実際の設計では、材料を選定する段階で「強さ」を使います。
剛性は材料のヤング率(縦弾性係数)から、強度は材料の降伏点と引張強さから判断でき、これらの数値から安全率を計算して強度に問題がないことを確認します。
材料の硬さ
「硬さ」とは、材料表面に力が加わった時の抵抗力の大きさのことです。
硬い材料は強く、柔らかい材料は弱いので、さきほどの「強さ」と「硬さ」は比例関係にあります。
硬さは、材料の種類ごとにいくつと決まっているわけではありません。
材質や大きさ、形状、力の強さによって変化するため、設計に応じた硬さ試験を行うことで部品の硬さを保証します。
実際の設計では、焼入れなどの熱処理を行う場合に硬さを指示します。
硬さ試験の種類は、以下の4つ。
部品の形状や用途に応じて使い分けます。
種類 | 記号 | 特徴 | 測定方法 |
---|---|---|---|
ブリネル硬さ試験 | HBW | 鋼球によるくぼみの直径を測る | くぼみの面積が大きいため、薄板や小物、硬度の高いものには適さない |
ビッカース硬さ試験 | HV | 四角錐によるくぼみの対角線を測る | 薄板や小物、硬度の高いものに適する |
ロックウェル硬さ試験 | HRC | 円錐によるくぼみの深さを測る | 焼入れ焼戻し品の測定に適する |
ショア硬さ試験 | HS | はね上がりの高さを測る | 測定物へのキズが目立たない |
材料の粘り強さ
「粘り強さ」とは、材料に急激な力が加わった場合の破壊のしにくさのことです。
破壊しにくい(粘り強い)性質を「靭性(じん性)」、破壊しやすい(もろい)性質を「脆性(ぜい性)」とも言います。
硬い材料ほどもろくなる傾向があるので、「強さ」「硬さ」とは反比例の関係があります。
強度計算では、実際の使用時に想定される力を仮定して安全率を計算しますが、想定以上の力が加わって部材が破損する場合もあります。
粘り強い材料を使っていれば、万が一想定以上の力が加わっても、破損を避けられる可能性が高くなるのです。
材料の物理的性質
つづいて、材料の物理的性質について説明します。
機械的性質は力がかかる構造物の設計で重要になりますが、物理的性質は電気や熱、磁性といった材料の性能が必要になる製品で重要視されます。
材料の重さ
材料の重さは密度(単位体積あたりの質量)で表されます。
鉄は重い(密度が大きい)、プラスチックは軽い(密度が小さい)といったことは、なんとなくイメージがつきますよね。
自動車のボディのように軽さが必要な製品には、密度の小さいアルミや樹脂を使います。
実際の設計では、軽さが必要なければ鉄鋼材料を、軽さが必要な場合にはアルミやプラスチック材料を選定するのが一般的です。
下記に主な材料の密度をまとめました。
材料名 | 密度 [g/cm3] |
---|---|
アルミニウム | 2.70 |
鉄 | 7.87 |
銅 | 8.92 |
ガラス | 2.5 |
水 | 1.0 |
鉄の密度が7.87[g/cm3]なのに対し、アルミニウムは2.70[g/cm3]と約1/3。
ちなみにですが、ヤング率の値もアルミは鉄のおよそ1/3なので、アルミは鉄に比べて「3倍軽く、3倍変形しやすい」と覚えておくと何かと便利です。
電気の流れやすさ
電気の流れやすさは導電率で表されます。
単純に、導電率が大きいほど電気が流れやすいということです。
下記に主な材料の導電率をまとめました。
材料名 | 導電率 [106S/m] |
---|---|
鉄 | 9.9 |
アルミニウム | 37.4 |
金 | 45.5 |
銅 | 59.0 |
銀 | 61.4 |
表を見ると、鉄に比べて金、銀、銅、アルミニウムは電気が流れやすいことがわかります。
ただし、金や銀は価格が高いため、一般的な電線にはコストの低い銅やアルミが採用されています。
材料の磁性
磁石にくっつく性質を磁性と言い、材料によって磁性のある・なしが変わります。
磁性のある材料の代表は、鉄・コバルト・ニッケルです。
金属は磁石にくっつくイメージがありますが、銅やアルミニウム、ステンレスは磁性がないため磁石につきません。
発電機やモーターは磁力を使って動いているので、これらの製品を使う場合は磁性のある材料を選定します。
材料の熱膨張
材料は、温度が変化するとその体積も変化します。
具体的に言うと、温度が上がると体積は大きくなり、温度が下がると体積は小さくなります。
これを材料の熱膨張といい、「何℃上昇したらどれだけ膨張するか」という割合を熱膨張率(線膨張係数)と言います。
下記に代表的な材料の熱膨張率をまとめました。
材料名 | 熱膨張率 [10-6/℃] |
---|---|
鉄(SS400) | 11.8 |
ステンレス(SUS304) | 17.3 |
銅(黄銅) | 18.3 |
アルミニウム | 23.5 |
ガラス | 9 |
熱膨張による変形量は微小ですが、はめ合いのように精度が求められる部位では、熱膨張によって部品が組み立てられない事態が発生します。
また、温度変化が大きくなると、熱膨張によって材料が破損することも。
上記のようなトラブルを起こさないためにも、実際の設計では熱膨張を考慮して適切な寸法を図面に指示する必要があります。
ちなみに、「図面に記載する寸法は環境温度20℃のときの値とする」とJISで決められています。
熱の伝わりやすさ
熱の伝わりやすさは熱伝導率で表されます。
材料を加熱・冷却する製品では、熱伝導率を考慮して材料を選定します。
たとえば、銅やアルミのフライパンは熱伝導率が良いため、熱が速く伝わり熱ムラが少ないのが特徴。
一方、ステンレスのフライパンは熱伝導率が悪く熱ムラが出やすいですが、一度熱すると冷めにくいため余熱調理に使われます。
他にも、熱を利用する製品では熱伝導率が使われるので、材料選定の重要な指標の1つです。
下記に代表的な材料の熱伝導率をまとめました。
材料名 | 熱伝導率 [W/(m・K)] |
---|---|
鉄 | 80 |
アルミニウム | 237 |
銅 | 398 |
ステンレス(SUS304) | 16 |
ガラス | 1 |
材料の化学的性質
さいごに、材料の化学的性質を説明します。
化学的性質とは、サビや腐食への抵抗力(耐食性)のことです。
材料は、周囲の気体や金属と化学反応を起こしてサビを発生させたり、溶けて穴があいたりすることがあります。
たとえば、鉄は耐食性が低く水分と反応してサビやすいため、台所のシンクには耐食性のあるステンレスが使われています。
また、特殊なガスを扱うような機器では、耐食性の低い材料だと配管が腐食してボロボロになってしまいます。
そのような場合は、ステンレスの中でも耐食性の高いSUS316Lを選定したり、表面をメッキして材料を保護するといった対策をとります。
実際の設計では、上記のように用途や目的に応じて材料や表面処理を使い分けることが大切です。
まとめ:材料の性質を理解して、正しく選定しよう
以上、材料の性質を3つの特徴に分けて説明してきました。
記事の途中でも言ったように、実際の設計では設計の目的や用途に応じて適切な材料を選択する必要があります。
ベテラン設計士の方なら、「こういう時はこの材料」と頭の中で考えて判断できますが、若手設計士の方は都度調べながら勉強していくことになるでしょう。
一度で理解できなかったという方は、仕事で材料選定をする機会が出てきた時にもう一度本記事を読んでみることをおすすめします!
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