「熱応力ってなに?」
「熱応力の計算方法が知りたい…!」
「設計する時の注意点とかあるの?」
このような疑問を解決します。
こんにちは。機械設計エンジニアのはくです。
2019年に機械系の大学院を卒業し、現在は機械設計士として働いています。
本記事では、熱力学を学ぶ第9ステップとして、「熱応力」について解説します。
この記事を読むとできるようになること。
- 熱応力とは何かがわかる
- 熱応力の計算方法がわかる
- 熱応力を考慮した設計ができる
今回は、熱力学というよりも、どちらかというと材料力学の知識です。
温度変化がある製品では、熱応力を考慮して設計しないと、トラブルにつながりかねません。
熱応力によって部品が破損して、製品が使い物にならなくなるといった事態を避けるためにも、確実に理解しておきましょう。
前回の記事はこちら。
熱応力とは
熱応力とは、材料の熱膨張によって発生する応力のことです。
物体の内部に発生する単位面積あたりの力のこと。単位は[N/mm2]。
金属や非金属にかかわらず、物体は温度が変化するとその体積も変化します。
たとえば、電車のレールは夏と冬で長さが変わります。
これは、熱膨張によってレールの体積が変化しているためです。
このような温度変化による体積の増減を熱膨張といい、その変化割合を熱膨張率(線膨張係数)と言います。
熱膨張率は、物質ごとに固有の値です。
主な材料の熱膨張率(※293K(=20℃)の時)
材質 | 熱膨張率[10-6/K] |
---|---|
アルミニウム | 23.1 |
銅 | 16.5 |
鉄 | 11.8 |
ステンレス鋼 | 14.7 |
ガラス | 9 |
エポキシ樹脂 | 6 |
では、熱膨張によって応力が発生するとは、どういうことでしょうか。
以下で具体的に説明します。
下図のように丸棒が固定されている状態で熱を加えると、材料は熱膨張を起こします。
ここで、丸棒は両端を固定されているため、膨張しようと思っても左右に伸びることができません。
つまり、実際は熱膨張によって長さ(L+x)となるはずが、両端から力Pが加わり長さLまで縮んでいるのと同じ状態です。
したがって、丸棒の断面積をAとすると、応力P/Aが働いており、これが熱応力となります。
応力については、こちらの記事をどうぞ。
熱応力の求め方
熱応力によって生じるひずみのことを熱ひずみと言います。
応力は、(ヤング率)×(ひずみ)で求めることができるので、ここでは熱ひずみの計算方法を紹介します。
物体が変形した時、元の長さに対してどれだけ変形したかを表す割合のこと。
元の長さをL、変形量を⊿Lとすると、ひずみεは以下のとおり。
ε = ⊿L / L
応力σとひずみεの比例関係を表す比例定数。縦弾性係数とも言う。
E = σ / ε
ヤング率が大きいほどひずみは小さくなるため、材料の変形しにくさを表している。
さきほどの例で、材料の熱膨張率をα(1/K)、変形前後の温度をそれぞれT1(K)・T2(K)とすると、熱ひずみεは以下の式で計算できます。
ε = α×(T2 – T1)
したがって、熱応力σは次のようになり、変形前後の温度と材料の熱膨張率・ヤング率がわかれば、熱応力が求められることになります。
σ = εE = α(T2 – T1)E
ひずみとヤング率については、こちらの記事をどうぞ。
熱応力を考慮した設計
熱応力の計算方法がわかったところで、機械設計において熱応力がどう関係するかについて説明します。
設計時に熱応力を考慮しなければならないのは、ずばり「異なる熱膨張率の材料を組み合わせて使う場合」です。
言葉だけだとわかりにくいので、具体例で説明します。
下記のように、アルミニウムとエポキシ樹脂をねじ固定した部品があるとします。
部品に温度変化が発生すると、熱膨張率の大きいアルミニウムは、熱膨張率の小さいエポキシ樹脂に比べて大きく変形します。
そのため温度変化が繰り返し発生すると、熱膨張率の差によって部品に疲労が蓄積され、最悪の場合は材料にき裂が入って部品の故障につながりかねません。
このように、異なる熱膨張率の材料を組み合わせる場合は、熱応力の影響を考慮して設計する必要があるのです。
まとめ:温度変化がある製品では熱応力が発生する
記事のポイントをまとめます。
- 熱応力とは、材料の熱膨張によって発生する応力のこと
- 物体は、温度が変化すると体積も変化する
- 熱膨張率は、材料によって決まった値
- 異なる熱膨張率の材料を組み合わせる場合は、熱応力を考慮して設計する必要がある
以上です。
温度変化がある製品では、熱応力を考慮して設計することが大切です。
熱膨張によって部品が破損するといったトラブルを避けるためにも、熱応力をきちんと理解して設計できるようになりましょう。
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